紙はくろやぎが食べる。

ゆっくりと更新して行きます。ただの自己満足です。

朧月が綺麗に見えるときに

いつからだろう。私は私じゃなくなったのは。いつの日か私の眼の前は屍ばかり。いつからだっけ。いつから…

いつからでもいい。考えるのはやめろ。という声が私の脳内で響く。

うん。いいや。もう、考えるのをやめよう。刀が、この刀が血を欲しているから私は斬るだけ。今日は朧月。朧月というと、懐かしい気がする。そして、私に一番近い存在だったような。
十六夜ちゃんを思い出すなぁ。十六夜ちゃんって誰だっけ?私の名前はなんだっけ?私の名前は…そう。私の名前は脳内に響いてきた声から貰った。私はアリサ。何年生きているのかわからないけど、アリサ。自分自身誰なのかわからないけど、アリサ。アリサっていう名前があるから、私はこの世に居られる。私という存在ができる。名前というものは奥深いものだ。










今日も私は、屍の山のてっぺんにしゃがんで休む。刀は満足したのか鞘の中へ入る。でも、少ししたらまた出てきて血を欲するだろう。

足音がした。私は警戒して足音がした方へ向く。足音の正体はあいつだった。私は嫌な顔をしたと思う。だって、嫌いだものあの人。

「あーあ、こんなにまた人を…埋めるの大変なんだからね。……んー、棺足りるかなぁ」

すごく可愛い声でいう人は、金髪でサイドテールにしており、ネクタイを巻いていて、少しフリルのついたスカートを身につけている。いたってシンプルな服装だ。一見女の子に見えるが、いや女の子にしか見えないが、私はこいつの正体を知っている。

「よくここが分かりましたね。墓守ちゃん。いや、女装変人墓守くん。」

その言葉を聞くと、墓守のやつはニッコリと笑いこう言ってきた。

「えーっ聞き捨てならないなー…変人じゃないよ。まぁ、説得力ないけど。私は、『女装はファッション』として着ているだけで、別に変な趣味とかじゃないからね。ん?変な趣味かもしれないけど。恋愛対象も女の子だしw」

墓守はどこからともなく棺を出して、屍をその中の入れていく。

「…今日は柩、引きずってきたんですね。」

いつも背負っている柩が、今日は紐で縛って引きずっている。

「柩?死体は入ってないから、棺だよ」

「どっちでもいいです。そんなの。食料とか入ってるじゃないですか。その中」

「あはは、重いんだよね…結構。食料に、シャベル、後男物の服とお財布。引きずった方が楽なのかなって思ったけど、そうでもなかったよ。」

笑いながら棺の中からシャベルを出し、穴を掘り始める。棺の中に屍を入れるのは後にしたそうだ。一定の深さまで掘ったら、隣にまた穴を作る。数分したら、大量の穴ができた。

「よしっと…スカートじゃ動きにくいから着替えたほうがよかったかな…どうしよう。着替える場所ないしなぁ…」

「ここで脱ぐとかやめてくださいね。気色悪くて吐きますから。女装している時点で気分が悪いんですから。あと、無駄に可愛い声いい加減にやめてください。耳が腐ります。」

「ひどいよーっ言い過ぎじゃない?男の子に見えないようにかんっぺきに女装してるんだからっ!」

可愛い声で言うなと言ったのに、言い始める。どこからそんな声を出しているのかわからない。そして、うざい。

「うざいし、気色悪いし…だいたい女装ってなんですか。貴方は男の方でもかっこいいじゃな……」

しまったと思い口を手で押さえる。

「かっこいい?そんな風に思っててくれてたのかw…ありがとう」

にこにことして、ありがとうだけ可愛くいう。変な勘違いをしていないか少し気になるが、勘違いをしていたら屍にして差し上げようと思い、気にしないようにした。

「はぁ…早く屍を片付けてください。生臭いったらありゃしない。」

「アリサちゃんがやったんでしょ?私ばっかり死体の片付けとか嫌だよー…少しは手伝ってぇ…」

「うざいから嫌です。」

そう言うと、ムッとした顔になり引きずっていた棺を立てて後ろに隠れると何かをし始めた。攻撃してくるのかなと思って身構えていたが、そうじゃないらしい。しばらくして出てきたのは男の人。着替えたらしい。

「着替える暇があったら早く片付けてください。」

「お前がやったんだろ?ちょっとは手伝えよ。それに、そんなところにしゃがんでたら、邪魔だしな。」

完全に男の人の声になり言ってきた。やっぱりあの声を出すとき、どこから声を出しているのかさっぱりわからない。

「…しょうがないですね。というかここで着替えるなって言ったでしょう?気色悪い。これが終わったら刀の餌食ですからね。」

これが終わった頃にはまた刀が血を欲するときぐらいだ。刀は前からあいつの血を欲しがっていた。

「おーw怖い怖い。まぁ、手伝ってくれるならなんでもいいけど。」

「…というか、金髪の長い髪…どうしてあんなに長いのに、今は短いのですか。」

「ん?んー……ひーみーつっ♪」

「は?バカにしてるんですか。斬り倒しますよ。男の格好で気色悪い声出さないでください。」

刀に手をかけると、両手をぶんぶんと振り、焦った表情をする。

「ごめんっ!!ごめんって!!エクステだって!」

「えくすて?」

えくすてが分からなくて、きょとんとしていたら、彼はびっくりしていた。

「え⁉︎エクステ知らないのか⁉︎…てっきり、ゴスロリっぽいもの着てるから分かるのかなって思ってた…」

「…知らなかったら悪いですか。悪いって言ったらめった刺しですよ。」

「悪くないって!ただ、可愛い服着てるからそう言うのもわかるかなーって思ってさ!」

そう言って、墓守は屍を持ってそっと棺の中へと入れる。私は雑にどさっと入れる。

「かわっ……っ。フリルがいっぱいついているのが好きなんです。ただ、それだけです。」

「そうか……。って⁉︎そんなに雑に入れたら可哀想だろ⁉︎もっと丁寧に入れろよ。ああ、こんな綺麗なのに…」

墓守は屍の頭を優しく撫でた。そう、こいつは変人だから、ネクロフィリア(死体愛好家)でもある。女装しているより、こっちのほうが気色悪い。

ネクロフィリアとか、気色悪いです。やめてください。変人。変人の域を通り越して、変態かもしれませんね。貴方は。」

「そこまでとはいかないと思う。多分…ネクロフィリアまで行かないよ。多分…」

柩の蓋を閉めて、穴へと運ぶ。そして土をかぶせる。これが、屍の葬り方らしい。

全部片付けたあと、墓守は全部の墓に一輪の花を添えた。

「あー、やっと終わった。疲れた。」

「…そういえば、貴方はどっちの味方なんですか?あっち側だったら、今ここにいる私を倒せばいいじゃないですか。」

墓守はニッコリと笑った。

「俺は、あっち側への味方だよ。だって、この星が滅びてしまうのは嫌だもん。確かに、あの子たちが死体となったら、それはとても美しいと思うし、保存したいって思うけど、でも俺はあっち側。雷ちゃん側につくよ。」

「そうですか。保存したいとか…やっぱり貴方は変態です。気色悪いです。…あっち側だったら、早く私を殺せばいいのに…」

「今倒しても、面白味がないだろ?みんなと協力して倒したいな。」

「……ふーん。バカなの。」

私は空を見た。お月様がよく見える。お月様は大好きだ。

「…貴方は、どうして墓守をしているんですか。」

その質問を言うと、墓守は少し微笑んだ気がした。

「………そうだね。俺が墓守をしている理由は………」

彼が理由を言うと、風が吹いて木がざわざわと揺れた。風の音がうるさくて、よく聞こえなかったが、まぁそんなに興味もないからいいか。

じゃあ、またね。と言って墓守は帰って行った。私は今気づく。あいつを倒すのを忘れていたということに。