episode3 雷が見たもの
図書室に行く前、雷たちはある人に出会った。ひょこひょこと短いアホ毛が動いている。
「あれ?ヒスイさん…ですか?」
プラチナブロンドのヒスイは雷たちを見つけると急いでこちらに走ってきた。
「むぅっ!私抜きで何か楽しいことしてるー??風知がルンルン気分で家を出て行ったから私も気になって、追いかけてきたの!!!」
のけ者にされてヒスイは少し怒っているようだ。でも、可愛らしい声だから怒っているようには聞こえなかった。
「そんなに楽しいってほどじゃないですよ…お化けとか怖いですし…」
「え⁉︎お化けって聞くとなんか楽しそうじゃん!!」
麗蘭は目を輝かせながら言った。キラキラと真っ暗な学校の辺りを照らしそうな勢いで。
「え…おばけ…?」
ヒスイの顔が真っ青になっていくのが雷にはわかった。
「そうです。お化けです…」
「おっ…おばけやーーっ」
ぷるぷると頭を振ってヒスイは拒絶する。
「ええっ!ヒスイさんってお化け苦手だったの⁉︎てっきり全然大丈夫だと思ってたよー!!!」
「むぅ……」
「じゃあ、せめて一緒に行動しましょう?それだと怖くないですよね?…ここから抜け出せないみたいだし…」(ぼそぼそ
「!」
ヒスイの顔がぱあっと一気に明るくなった。それを確認して雷はにこっと笑った。
「それで、どこ行くのー?」
ヒスイが問いかけると、麗蘭はすぐに答えた。
「調べ物があるから図書室に行こうと思ってるんだー!」
「図書室!じゃあ階段を上がらなきゃ!!」
そう言ってヒスイは階段を駆け上り一気に踊り場まで付いた。さすが運動神経のいい子だ。
「みんなも早くおいでよー!」
ヒスイが言った途端、ヒスイの体は誰かに押され、真っ逆さまに階段から落ちてきた。ガタンバタンドタンと鈍い音を立てて、ヒスイは雷たちのすぐ足元まで落ちてきた。強く打ってしまったらしく、頭からは血が流れ、綺麗なプラチナブロンドの髪の色は赤色に染まっていた。
雷はすぐにヒスイがいた階段の踊り場を見る。そこには黒い人影がいた。だが、雷の視線に気づいてその影は階段を急いで上がって行ってしまった。だけど、白色の布みたいなものがチラッと見えた。その布みたいなものには見覚えがあったが、思い出せなかった。
「ねぇ、ヒスイさん死んじゃった?頭、強く打っちゃったし…」
「あんまり見たくないけど、よく見てください。頭、変な方向に曲がっています。即死ですよ。」
「ゔっ…やだ。もう見たくない。どこかに運んであげよう。人目につかないところ。」
「そう…ですね。」
二人で運んで、階段下の隅に置いてあげた。置いたのはいいが、今にも動きそうで怖くなった。動くとは思わないが、こんな状況だからそう思ってしまう。
「はやく、行こう。怖いし」
「そうしたほうがいいですね。行きましょう。」
「ねぇ、なんでそんなに冷静なの?」
「…え?」
「さっきからさ、冷静すぎない?人が、人が死んでるんだよ?おかしいよ。ねぇ。」
さっきまで元気だった麗蘭なんてどこにもなかった。イラついた口調だった。
「なんでって言われても、冷静でいないと怖くて怖くて、今にも自分自身が壊れそうで…だから無理にでも冷静を装ってるんです。」
雷は少し体が震えていた。それを見た麗蘭は怖いのは自分だけじゃない。と思ったらしく、冷静を取り戻した。
「…そう…だよね。怖いのはみんな一緒だもんね。ごめん、なんか二人も死んじゃったから怖くて、それも今回は目の前で。怖かった。それで雷を責めてた。ごめんね。」
「大丈夫ですよ。さぁ、図書室に行きましょう。」
雷たちは図書室に着いた。新聞の切り抜きの資料を探している。麗蘭が言っていた前の事件とはなんなのだろうか。
「あった!この資料で、確か……あ、これ!!」
ペラペラとめくって開いたページを雷に見せる。雷は本を受け取り、ライトで本を照らし読む。
「学校殺人事件?5人死亡で1人が行方不明…あ、ちゃんと名前まで書いてあります。でも、行方不明者だけ切り取られて読めなくなってる。」
雷はそのページを見て、前のページへ戻る。少しページを進めていくと、また同じ事件があった。
「この事件、結構昔にもあったんですね。」
「そうなんだよー。なんかこの事件と今、似てるなーなんて思ってさ。だって、死人だって出てるしそれに学校だし…」
「そういえば、ライラさんってこのゲームを実行するときにすごく止めていましたよね?この事件と関わりがあるんじゃないかなって思うんですが…」
「確かに、必死だったもんね。結局ついてきちゃったみたいだけど…」
「ライラさんを探してみましょうか。この学校広いから、探すのに時間がかかりそうですけど…」
「そこはしょうがないよ。じゃあ行こうか。」
麗蘭は図書室のドアを手にかけて開けた。その目の前に、俯いているタルトがいた。タルトの手には雷が作ったぬいぐるみを持っていた。
「あ!タルトさん!何処に行ってたんですか?探してたんだよー?」
だが、様子がおかしい。返事がなくただ俯いてるだけだった。ふらふらともしている。不気味な感じだった。
「あっあの…?タルトさん?」
雷が話しかけると何かぶつぶつ言っている。耳をよく済ませても全然わからない。
「……ん…った。……た……て………ら。」
「えっと……?」
「待ってよ。置いていかないでよ。みんなで一緒に行動したほうがいいだろ?」
「そうですよね。一緒にいた方が安全ですよね。」
「待って雷。まだタルトさん俯いたままだからおかしいよ。」
「ははは。……俺、死んじゃったんダ。助けテくれなかっタからサ」
明らかに声がおかしかった。二人は怖くなってその場を立ち去った。だが、頭から血を流しているタルトが雷たちを追いかける。雷は失神しそうになったが、今ここで倒れてしまったら…もう後がないだろう。教室に入り、麗蘭は教卓の下、雷はロッカーの中に隠れた。少し時間が経ったら、ドアが開く音とタルトの声がした。
見つかりませんようにと二人とも祈っていた。机が倒れる音がしたり、タルトの笑い声が聞こえたりしていて、雷はとても怖がっていた。そしてロッカーの近くで足音がする。タルトはロッカーの前に立ち止まった。外からこちらの様子を伺っているように雷は思えて、叫びそうになる声を必死に我慢していた。ただ、うずくまって震える肩を手で押さえていた。だが、タルトは中を確認しないで、教室から出て行った。ほっとした雷は深呼吸をした。そして、ロッカーの中から出ようとするとガタガタとロッカーが揺れた。誰かが揺らしているようだ。雷は小声で悲鳴を出してしまい、揺らしていた人物に気づかれてしまったのか、ロッカーの揺れが止まった。少しづつロッカーの扉が開く。タルトが戻ってきたのかと思ったが、目の前にはタルト……じゃなく誰かだった。暗くてよく見えないのだ。でも、タルトじゃない。その人影は雷をロッカーから出すと体を押さえつけて、鋭い刃物で雷に向かって刺そうとする。
「あ…」
雷が最後に見たものは、鋭く先が尖っていて、とても長い刃物だった。そして、雷が感じたものは、とてつもない耐え切れないほどの強い痛み。