episode2最初の犠牲者
雷の悲鳴が聞こえたところへ急いで走っていく風知。
「なっなにがあったんだ⁉︎」
雷は窓の外を震える指で指した。そこには逃げている小傘がいた。だが、正門に向かって走っていない。誰かに追いかけられて走っているような気がした。よく見ると、小学生ぐらいの男の子がぬいぐるみの横に置いていた刃物、包丁を持って、小傘を追いかけていた。
「やっやだ!ボクまだ死にたくない!」
咄嗟に動いたのは風知だった。窓から外に出て、そこらへんにあった石を投げ男の子の注意をひく。男の子はすぐに風知をみた。
「こっち!こっちだよ!」
そう言うと男の子はすぐに風知を追いかけた。雷はそれを震えながらみることしかなかった。小傘はどこかに逃げてしまったようだ。
少し時間が経ってから、雷は窓から顔を出して、外の様子を伺った。誰もいないことを確認して外に出る。足が震えてうまく歩けないが、なんとか正門の前まで歩けた。正門は閉まっていた。
「あれ、私たち開けっ放しで来たはずなのに…」
そんなに高くない門だったから、よじ登ってすぐ出ることができた。着地をして、下に向けていた視線を前に移すとそこは、正門の前だった。
「…え?私、ちゃんと越えたはず…」
恐る恐る後ろを振り返ると、見慣れた学校の昇降口があった。
ライラが言っていた、ここから出られないと思う。と言うのは当たっていた。雷は叫びたくなる気持ちをぐっと抑えた。叫んだら幽霊に自分の居場所を教えているものと同じだから。それでも諦めきれなくて、何回か正門を越えたが、結果は同じだった。
諦めて、学校に隠れていようとしたところにさっきの男の子がいた。見つかってしまった。逃げなきゃと思っていたが、怖くて足がすくみ、上手く走れなかった。男の子は少しづつ逃げる雷を横目にこう言った。
「……探して。」
それだけ言って何処かへ行ってしまった。雷はほっとして力が抜け、その場に座ってしまった。
「探して?何を?…どういう意味だろう。あ、夜明けまであとどれくらいなのでしょうか…」
雷は腕時計を確認した。確かここに来てぬいぐるみを置いたのが午前2時って言っていたはずだ。さっきから10分ぐらいは経っているだろう。だが、雷は時計を見て固まってしまった。
「…午前2時…止まってる?…壊れただけだよね。」
そう言って、急いで学校の中に入り教室の時計を確認する。だが、そこでも午前2時で止まっていた。雷は頭がクラクラしたような気がした。気絶しそうになったが、ここで倒れてしまったら永遠の眠りについてしまうかもしれないということが頭をよぎって、気絶できなかった。
「とりあえず、捕まらないように逃げなきゃ。」
小傘は倉庫に隠れていた。さっき見た男の子が頭から離れられない。無表情で自分を殺そうとしてきた子のことが。
「うぅぅ、帰りたい。ここ埃っぽかった…出るにも怖くて出れないし…」
いつもの星マークとか音符マークのつく明るい感じのトーンではなかった。恐怖でそれどころではないからだ。
ガチャと誰かがドアを開けた音がした。小傘はびっくりして身を縮こまらせ隠れていた。でも、誰だか確認したくて物と物の間から除く。月明かりがその正体を明らかにした。小傘は安堵の表情を浮かべた。
「…とりあえず、隠れられそうな倉庫にきてみましたけど…誰かいるのかな?」
雷はそっとドアを開けて中を確認するが、ちょうどお月様が雲に隠れて薄暗く、よく見えない状況だった。
「んんん…見えない。あ!そういえばライト持ってきたんでした。」
バックの中からライトを持ってきて、遠くの方を照らしながら前に進んだ。
「…?…なんか生臭いような…。⁉︎何か踏んだ!」
急いで足元を照らすと、誰かの手を踏んでいた。服の袖からして小傘だろう。少しホッとした雷。でも、すぐに異変に気付く。なぜ倒れているのか。急に怖くなり、ゆっくりと小傘を照らす。
「ひっ⁉︎」
そこには、仰向けになってお腹に果物ナイフが刺さっており、血を流して死んでいる小傘がいた。このナイフは小傘が持ってきて、ぬいぐるみの横に置いていたナイフだ。
「小傘さん⁉︎」
体を揺らすがなんの反応も起こさない小傘。ただ虚ろな目が雷だけを見つめていた。
「なんで、小傘さん…はぅ…。あの男の子がやったのかな…?……あれ?」
死体をよく見たくなかったが、異変に気付き見てしまう。
「ごめんなさい小傘さん、ちょっと失礼します。」
ハンカチで果物ナイフを引き抜いた。あっさり取れてしまった。傷跡を見ると果物ナイフで刺すより、深い傷ができていた。
「おかしい、果物ナイフより深い傷ができるなんて…どういうこと?」
考えていたら、ドアの近くから声が聞こえた。
「雷、それって…」
「はい。あの男の子にやられたかもしれないんです。」
「小傘さんも?」
「もって言うと…?」
「実はタルトさんと一緒に行動してたんだけど、あの男の子が出てきて、タルトさんが一目散に逃げちゃって…それから行方がわからないままなんだ。死んじゃったかどうかわからないけど…。こういう時はみんなでまとまって行動するべきだと思うんだ。」
「そうですね。じゃあ、タルトさんを探しに行きましょうか。」
雷がゆっくりと立ち上がる。そして、小傘の前で十字を切った。
「あの、その前に行きたいところがあるんだ。」
「なんですか?」
「図書室。この事件、前の事件と似てる気がしてさ。図書室の新聞の切り抜きで見たことあるんだ。だから、確認したいなって。」
「前の事件?…いいですよ。行きましょう。」
雷たちはその場をあとにし、図書室へ向かった。